スタイルの選択

2011.07.02

仕立屋もブランドも、それぞれ独自のスタイルを持っている。ダブルブレストに腕の冴えを見せる職人もいるし、ハンティングジャケットのようなスポーティーなものが得意だという仕立屋もある。スタイルを選ぶということは、つまり仕立屋やブランドを選ぶということになる。イタリアは都市ごとにカッティングが異なるほど、自分たちの匂いを大事にする文化を守っている。フィレンツェの粋がいいのか、ナポリの伊達を愉しみたいのか、ローマのクラシックを着たいのか、そんな選択もある。レストランに入って、ワイン選びに自信がないとき、ハウスワインを試すことが多い。ハズレを避けようと思うなら、それは懸命な選択だ。初めての仕立屋の場合、わたしはそこのハウススタイルをまずは味わうことにしている。オーナーである職人が着ているスーツが素敵ならば、迷わず「同じものを仕立ててくれ」と言う。最も得意とする服、自信のある服を着ているはずだからだ。そのハウススタイルを好きかどうか、これが基準だ。職人はこちらに合うように、アレンジしてくれる。不埓なオーダーをすることは、職人を混乱させるばかりでなく、惨價たる結果を招きかねない。職人に対しても失礼だ。乱暴な言い方だが、いくら有名な仕立屋であろうと、そのスタイルを好きになれないなら、無理をして誂えることはしないほうがいい。いつかそのスタイルと自分の気持ちが響き合ったときに、そのときに味わえばいい。既製服のブランドやファクトリーでも、得意、不得意がある。ただし日本の場合、買い付ける側かあれこれ注文をつけ、ブランドなりファクトリーなりの匂いを消してしまう愚を冒しがちだ。数寄屋づくりを得意とする大工に、パンテオンやヴェルサイユを求めても無理な話だ。そうではなく、ブランドやファクトリーの匂いが濃密で、それを好ましく感じるかどうかで選ぶべきである。そんなふうにしてさまざまな服に袖を通しているうちに、自然と自分の好きなスタイルというものが絞られてくる。あるいは、オケージョン(場面)に合わせたスタイルが決まってくる、と言い換えてもいいだろう。パーティーに出かけるなら、この仕立屋。大事な商談やプレゼンテーションのときは、このブランド。飛行機に乗る時問が多い旅行は、この服。それに、シャツやネクタイや靴との調和も、少しずつ整っていくはずだ。「文はひとなり」と言うが、「スタイルもまたひとなり」だ。鏡で全身を映してみる。肝心なのは、パッと見て自分の体型にイメージとして合うスタイルか、好きかどうか(上半身)。Vゾーンが大きいとどう見え、ウェスト部分が絞られていると違和感があるかないか、見極めておいて損はない。後ろ姿も記憶にとどめておきたいところだ。

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